アトピー性皮膚炎への対処・治療方法
症状や原因
アトピー性皮膚炎の治療は、スキンケア、アレルギー反応の抑制、炎症の抑制を目的として、薬による治療を中心に行います。
この疾患は、完全に治るケースは非常に少なく、いかに日常生活を支障なく、送ることができるかが最も大切なポイントとなります。
アトピー性皮膚炎の治療目標
アトピー性皮膚炎の治療では、以下のような状態を維持することを目指します。
①症状がない状態、あるいはあっても日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態
②軽い症状はあっても、急に悪化することはなく、悪化してもそれが続かない状態
★具体的な目標
・夜ぐっすり眠れる
・ファッションを楽しむ
・仕事に集中できる
・勉強に集中できる
・旅行に行く
・温泉でのんびりする
・対人関係で積極的になる
監修:近畿大学医学部 皮膚科学教室 主任教授 大塚 篤司 先生
治療方法
確実な診断・重症度の評価をした後、治療の目標やゴールを共有した上で、以下のような治療が行われます。
●外用療法
・保湿外用剤
・ステロイド外用剤
・タクロリスム外用薬
・JAK阻害剤 New (コレクチム軟膏)
・PDE4阻害薬 New(モイゼルト軟膏)
●全身療法
・デュピクセント New(生物学的製剤:注射)
・アドトラーザ New(生物学的製剤:注射)
・ミチーガ New(生物学的製剤:注射)
・JAK阻害剤(内服薬)
・シクロスポリン
・経口ステロイド(内服薬)
・光線療法
★新しい治療薬「デュピクセント®」とは
投与できる方
今までの治療で十分な効果が得られない成人アトピー性皮膚炎の方にご使用いただけます。
デュピクセントは、「IL4」と「IL13]という物質の働きを直接抑え皮膚の炎症細胞を抑制することによって、かゆみなどの症状や皮疹などの皮膚症状を改善する新しい治療薬です。
当院でも、多くの患者様に処方させて頂き良好な治療結果が得られております!
→ デュピクセント小冊子(PDF)
→ デュピクセントを使用されるアトピー性皮膚炎の患者さんへ(外部サイト)
→ デュピクセントの導入スケジュール(外部サイト)
★新しい治療薬「アドトラーザ®」とは
アドトラーザは、デュピクセントと並び、令和5年9月に発売された生物学的製剤で、アドトラーザ®は「IL-13」のはたらきを抑える薬です。
IL-13は皮膚のバリア機能低下や炎症、かゆみに関わることが知られているため、IL-13のはたらきを抑制すれば、アトピー性皮膚炎患者さんの皮膚の症状を改善することが期待できます。
海外では、アトピー性皮膚炎患者さんは、そうでない人と比較してIL-13の量が多いとの研究結果が報告されています。
→ アドトラーザ患者向け小冊子(PDF)
→ アドトラーザについて詳細サイトを見る(外部サイト)
→ アドトラーザの導入スケジュール(外部サイト)
治療方法の詳細
症状によって薬の使い方が変わってくるので、そのときの状態に合った治療を続けることが大切です。
また最近では、アトピー性皮膚炎の原因にはアレルギー機序のみだけではなく、皮膚のバリア機能障害が大きく関与していることがわかってきました。よって保湿することの重要性があらためて再認識されています。
リアクティブ療法とプロアクティブ療法 1)
良くなったり悪くなったりを繰り返すアトピー性皮膚炎では、治療によって一時的に症状がない状態まで改善していても、目には見えない炎症が残っており、再び湿疹やかゆみが現れてしまうことがあります。
従来は、症状が軽快したら、炎症を抑える薬の使用を一旦止め、症状が悪化したら再開するという治療(リアクティブ療法)が一般的でした。
しかし、近年は症状の軽快後にも一定の間隔で炎症を抑える薬を使用し、症状がない状態を維持することを目指す治療(プロアクティブ療法)が推奨されています。
なお、どちらの治療法であっても、保湿外用薬によるスキンケアは継続して行う必要があります。皮膚の炎症を抑える治療と、バリア機能を回復させる治療を上手に組み合わせることが大切です。
1) 日本アレルギー学会・日本皮膚科学会編:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021, アレルギー 70(10), 1257-1342, 2021
外用療法・皮膚の炎症を抑えるために、ステロイド外用薬や非ステロイド消炎薬(タクロスリムetc)が処方されます。
・ドライスキンを改善するためには保湿性外用剤が使われます。
・ステロイド外用薬は、作用の強さによって5つに分類され、湿疹の状態、場所や年齢によって使い分けます。
内服療法・かゆみを抑えるために、抗ヒスタミン薬が処方されます。
・アレルギー反応を抑えるためには、抗アレルギー薬が使われます。
ステロイド軟膏について・ステロイド軟膏は決して毒ではなく、アトピー性皮膚炎の治療には基本必要不可欠なものです。使い方を間違えれば副作用もでますが、決して自己判断せず、正しい使い方で治療することで良好なコントロールが可能となります。
とは言っても、ステロイドに不安を抱いてる患者様は、多くおられると思いますので、診察の時にきちんと説明を聞き治療を開始されることをお勧めします。
非ステロイド消炎薬タクロスリム(プロトピック)・プロトピック軟膏はステロイド外用薬とは別の薬です。体の過剰な免疫反応をおさえてアトピー性皮膚炎のかゆみや炎症をおさえます。プロトピック軟膏の炎症をおさえる効果はミディアム(マイルド)クラス~ストロングクラスのステロイド外用薬と同じくらいです。
→ 非ステロイド消炎薬タクロスリム(プロトピック)小冊子PDF
JAK阻害剤 デルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏0.5%)・細胞内の免疫活性化シグナル伝達に重要な役割を果たすヤヌスキナーゼ(JAK)の働きを阻害し、免疫反応の過剰な活性化を抑制することでアトピー性皮膚炎を改善する、非ステロイド性の世界初の外用JAK阻害剤です。(2020年6月に発売)
この機序はこれまでのアトピー性皮膚炎の治療薬「ステロイド」「プロトピック」などとは全く異なる機序で、新しいお薬となります。
例えば、顔の皮疹で、特に目のまわりに頑固な皮疹がある方、プロトピックが痒みや
ヒリヒリ感のために使いづらい方、などに良いのではと思います。
※薬を使用できない方
・16歳未満の方
・妊婦さん、授乳婦さん
→ コレクチム軟膏0.5% 小冊子PDF
ヒト型抗ヒトIL4/13受容体モノクロナール抗体 デュピルマブ(遺伝子組換え)製剤「デュピクセント皮下注300mgシリンジ」
IL-4/13によるシグナル伝達を阻害し、アトピー性皮膚炎の病態に深く関与するTh2型炎症反応を抑える、世界初のヒト型抗ヒトIL4/13受容体モノクロナール抗体(生物学的製剤)です。
投与方法:通常、成人には初回に600mg、2回目以降は300mgを2週に1回皮下注射します
効能:既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎
→ デュピクセント 小冊子PDF
アトピー性皮膚炎治療薬「モイゼルト軟膏(ジファミラスト)」PDE4阻害薬・モイゼルト軟膏(一般名:ジファミラスト)は、外用剤に適した物性を持つ化合物として大塚製薬株式会社により開発されました。日本初となるホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤の外用薬です。2021年9月承認、発売日は6月1日です。
モイゼルト軟膏はPDE4を選択的に阻害することで炎症性サイトカインなどの化学伝達物質の産生を抑制し抗炎症作用を発揮します。ステロイドの維持期に置き換えて使うことで、ステロイドの使用を減らせる可能性があると考えられます。
投与方法:モイゼルト軟膏は濃度が2種類(0.3%・1.0%)あり、1本10gのチューブとなってます。
2歳以上~14歳以下の小児のアトピー性皮膚炎の患者さまはモイゼルト軟膏0.3%か1.0%のいずれかをお使いいただけます。ただし「小児に1%製剤を使用し、症状が改善した場合は、0.3%製剤への変更を検討すること。」と記載があり、1.0%製剤は短期間の使用にとどめることとされています。
15歳以上~70歳以下の成人のアトピー性皮膚炎の患者さまはモイゼルト軟膏1.0%製剤とされており0.3%製剤はお使いいただけません。使用方法は小児・成人とも1日2回適量を患部に塗布して使用します。1回の塗布量の制限はありません。
★アトピー性皮膚炎のスキンケアと生活時の注意点
1)1日2回の保湿剤の外用
2)入浴・シャワーにより皮膚を清潔に保つ
3)室内を清潔に保ち、適温・敵湿の環境を作る
4)規則正しい生活をおくり、暴飲・暴食は避ける
5)刺激の少ない衣服を着用する
6)爪は短く切り、掻破による皮膚障害を避ける